プロローグ | |
語り手 | ここは静かな海辺の町、古い灯台もある 祖父の写真館がひっそり立つ。 |
語り手 | 私はイッチ。この店を継ぐため、都会を離れ そこには祖父の思い出と、不安があった。 |
語り手 | 祖父は頑固だが、写真には 温かい心を込める人だった。 |
語り手 | 幼い頃の私は、暗室の赤い光を不思議がり 祖父の背中を見つめていた。 |
語り手 | けれど、祖父が亡くなってから この店は寂れてしまった。 |
語り手 | 客足は遠のき、店内には埃が 静かに積もっていくばかり。 |
語り手 | 都会で働きながらも、祖父の顔を 思い出すたび胸が痛んだ。 |
語り手 | 「写真を撮るのは人を撮ることだ」 そう言っていた祖父の声が響く。 |
語り手 | だから私は戻ってきた。誰もが 忘れかけたこの写真館を守るため。 |
語り手 | しかし現実は甘くない。初日の売上は ゼロ、通りは閑散としている。 |
語り手 | シャッターを開けては、潮の匂いを 感じるだけの日々が続いた。 |
語り手 | 「本当に再生できるのか?」と、心に 不安を抱えながらも店に立ち尽くす。 |
語り手 | 祖父の遺品を整理すると、古いカメラや モノクロ写真が山ほど出てきた。 |
語り手 | そのモノクロ写真には、かつての活気ある 町の姿が写し出されている。 |
語り手 | 私はふと、その写真を見つめたまま 一人決意を固めるのだった。 |
イッチ | 『じいちゃん、俺はこの店を守るよ。 絶対に諦めないから…』 |
語り手 | そう呟く声だけが、古い写真館の 静かな空間に響いていた。 |
【第一章:謎の老人登場】 | |
語り手 | ある朝、ガタガタと古い扉が開き みすぼらしい格好の老人が入ってきた。 |
語り手 | 見ると、衣服はところどころ ほころびており、小さな荷物だけを抱えている。 |
イッチ | 『いらっしゃいませ…証明写真、ですか? すみません、準備しますね』 |
語り手 | 老人は財布を取り出したが、中身は 小銭が数枚しかないようだった。 |
老人 | 『わし、金が足りんかもしれん。 でも、どうしても必要なんじゃ』 |
語り手 | イッチは悩んだが、店を継いだばかりの 初心を思い出し、撮影を引き受ける。 |
イッチ | 『大丈夫です。今はお金がなくても 構いませんから、座ってください』 |
語り手 | 老人の顔には深い皺が刻まれ、 その瞳には何か強い意志が宿っていた。 |
語り手 | イッチはブースに誘導し、急いで 照明を調整する。客はほとんど来ない店だが… |
語り手 | こんな客でもありがたい、そう 思いながらシャッターを切った。 |
老人 | 『すまんな。写真がないと、 先へ進めない事情があるんじゃ』 |
語り手 | 老人の言葉の奥に、何か秘密が 隠されているように感じた。 |
イッチ | 『ここで撮影してくれてありがとう、 そう言ってもらえたら嬉しいです』 |
語り手 | シャッター音が小さく響く。老人は 少しだけ安堵の表情を浮かべた。 |
老人 | 『ここで撮って良かった。 また、いつか来るかもしれん』 |
語り手 | 老人はお金を足りるだけ置き、 足早に店を出て行った。 |
語り手 | イッチはその背中を見送り、 得体の知れない不思議な気持ちになる。 |
イッチ | 『変わったお客さんだけど… なんだか印象に残るな』 |
語り手 | そうつぶやいて、イッチは現像作業に 取りかかるのだった。 |
【第二章:嫁子との再会】 | |
語り手 | その翌日、イッチが店先を掃除していると 車から降りてきた女性が声をかけた。 |
嫁子 | 『イッチ、久しぶり! やっぱり帰ってきてたんだね』 |
イッチ | 『…え? 嫁子? うわ、本当に 久しぶりだな。どうしたんだ?』 |
語り手 | 嫁子は都会のPR会社で働いていたが 地元に戻ってきたという。 |
嫁子 | 『実家の都合もあるし、こっちで フリーでやってみようと思って』 |
イッチ | 『それじゃあ、当分はここで? なんか心強いな』 |
語り手 | 二人は幼なじみで、昔はよく砂浜を 一緒に走り回っていた仲だった。 |
語り手 | 再会の喜びが胸に広がり、同時に 懐かしさも込み上げてくる。 |
嫁子 | 『ねえ、写真館はどう? 大変そうに見えるけど…』 |
イッチ | 『正直、厳しいんだ。客も少ないし、 どうすればいいか悩んでる』 |
語り手 | 嫁子は周囲を見回しながら、何か 考えを巡らせている様子だった。 |
嫁子 | 『私にできることがあれば、手伝うよ。 せっかく帰ってきたんだし』 |
イッチ | 『助かるよ。PRのプロだろ? 何かアイデアあったら教えてくれ』 |
語り手 | 昔から好奇心旺盛で活発だった嫁子が、 この写真館をどう変えてくれるのか。 |
語り手 | イッチは少し期待を抱きながら、 嫁子を店内へ案内するのだった。 |
【第三章:PR戦略の提案】 | |
語り手 | 店内に入ると、嫁子は壁に飾られた 古い写真たちを熱心に見つめた。 |
嫁子 | 『イッチ、これ全部あんたが撮ったの? それともおじいちゃんの作品?』 |
イッチ | 『ほとんどはじいちゃんのだよ。 俺が撮ったのは奥の方に少しある』 |
語り手 | 奥にはイッチが都会で学んだ技術を 試した新しい写真も並んでいる。 |
嫁子 | 『いろんな表情があるんだね。 どれもすごく素敵じゃない』 |
イッチ | 『でも、宣伝が全然足りなくてさ。 この町に人が来ないと意味がない』 |
嫁子 | 『SNSとかホームページとか、 ちゃんとやってる?』 |
イッチ | 『全然…そこまで手が回らなくて。 俺一人じゃ限界だよ』 |
語り手 | 嫁子はタブレットを取り出し、ネット上で 「海辺の写真館」を検索してみる。 |
語り手 | しかし情報はほとんど見当たらず、 たまに口コミがある程度だった。 |
嫁子 | 『まずはSNSを活用しよう。 それからホームページも作るの』 |
イッチ | 『そんなことで本当に客が増えるのか? 田舎だし効果があるのかな…』 |
嫁子 | 『大丈夫。どんな場所でも“映える”が あれば人は集まるから』 |
語り手 | 嫁子の言葉は自信にあふれていた。 イッチはその説得力に引き込まれる。 |
嫁子 | 『あんたが撮ってる写真、 もっと世に出すべきだと思うよ』 |
イッチ | 『わかった、じゃあ手伝ってくれ。 俺もできる限りのことはやる』 |
語り手 | こうして二人は、新たなPR戦略を 練るために動き出すのだった。 |
【第四章:再登場する老人】 | |
語り手 | ある夕方、店のドアがまた ギイと音を立てて開いた。 |
語り手 | そこに立っていたのは、あの時の みすぼらしい老人だった。 |
イッチ | 『あ…また来てくれたんですか? 前回の写真、出来てますよ』 |
老人 | 『写真は後でええ。先におまえさんに 見せたい場所があるんじゃ』 |
語り手 | 老人は突然、洞窟のある絶景スポットを 知っていると言い出した。 |
イッチ | 『洞窟? そんな場所あったっけ…? 俺は聞いたことないな』 |
老人 | 『ここから少し離れた崖の先に、 小さな入り口があるんじゃ』 |
語り手 | イッチは驚き半分、興味半分で 老人の話を聞き込む。 |
イッチ | 『なんで急に教えてくれるんです? 俺に何かしてほしいのかな』 |
老人 | 『さあのう。ただ、わしはこの町の 宝を誰かに託したいだけじゃ』 |
語り手 | 老人は謎めいた言葉を残して また足早に店を出る。 |
語り手 | イッチはわけがわからないまま、 老人の背中を見送るしかなかった。 |
嫁子 | 『今の人、前に来たお客さん? なんだか気になるね』 |
イッチ | 『ああ…謎だらけだけど、洞窟ってのも 興味あるから行ってみたい』 |
語り手 | イッチは嫁子と顔を見合わせ、 次の撮影地を求めて胸を弾ませる。 |
語り手 | 謎の老人が告げた場所、それが 何をもたらすのかはまだわからない。 |
【第五章:洞窟での撮影】 | |
語り手 | 翌朝、イッチと嫁子は老人に教えられた 場所へ足を運んだ。 |
語り手 | 岸壁を回り込むと、岩の隙間に 確かに小さな洞窟の入り口がある。 |
嫁子 | 『こんなところ、地元民でも知らないんじゃ ない? ワクワクするね』 |
イッチ | 『うん、足元気をつけて。 暗いからライト持ってきた』 |
語り手 | 洞窟の中はひんやりと冷たく、 わずかな光が差し込んでいた。 |
語り手 | 水滴がゆっくり落ちる音と、波の 遠い響きだけが聞こえる。 |
嫁子 | 『神秘的…こんな場所があるなら、 写真映え間違いないよ』 |
イッチ | 『確かに、自然の造形がすごいな。 今まで全然知らなかった』 |
語り手 | イッチはカメラを構え、嫁子は スマホでライトを当ててサポートする。 |
語り手 | シャッターを切るたび、洞窟の 神秘が写真に収まっていく。 |
イッチ | 『うわ、岩肌に当たる光が綺麗だ。 これ、絶対にSNSで注目される』 |
語り手 | 嫁子は笑みを浮かべ、イッチの 撮る写真を覗き込んでいた。 |
嫁子 | 『いい写真だね。どんどん撮って、 絶対に発信していこうよ』 |
語り手 | しかし、謎の老人の姿はそこになく 二人だけで洞窟を探索する。 |
語り手 | ただその気配だけが、どこかで 見守っているような気がした。 |
イッチ | 『あの人、一体何者なんだろう… まあいい、まずは撮影だ』 |
語り手 | イッチと嫁子は撮影を終え、 満足感とわずかな不思議を胸に帰路についた。 |
【第六章:老人の正体】 | |
語り手 | 洞窟の写真をSNSに投稿すると、予想外に 多くの反応が寄せられた。 |
語り手 | 「こんな絶景があるなんて知らなかった」 「ぜひ行ってみたい」とコメントが続く。 |
イッチ | 『やっぱり効果あるんだな…嫁子の アドバイス通りやってよかった』 |
嫁子 | 『みんな“未知の体験”を求めてるの。 発見できれば価値は高いんだよ』 |
語り手 | その頃、町では「世界的に有名な 写真家○○先生が昔ここにいた」そんな噂が流れていた。 |
語り手 | だが、その写真家は長らく失踪中で 消息不明だと聞かされている。 |
イッチ | 『世界的に有名って…まさか、 俺たちの町にそんなすごい人がいたのか?』 |
嫁子 | 『うちの親も昔聞いたことあるって。 でも急に姿を消したらしいよ』 |
語り手 | その話を耳にするたび、イッチは なぜかあの老人の姿を思い出す。 |
イッチ | 『まさかとは思うけど… いや、でも気になるな』 |
語り手 | 店に帰ると、入口に見慣れたあの 老人が立っていた。 |
老人 | 『よお、写真は撮ったか? 洞窟はええ場所じゃろう』 |
イッチ | 『はい、いい写真が撮れました。 ところで、あなたは一体…』 |
老人 | 『名乗るほどのもんじゃない。 ただの流れ者よ』 |
語り手 | 老人は曖昧に笑う。けれど、その 佇まいはどこか“本物”の匂いを漂わせている。 |
嫁子 | 『この町のこと、詳しいみたいですね。 昔から住んでるんですか?』 |
老人 | 『さてな…おまえさんらの写真を、 もっと見たいもんじゃ』 |
語り手 | そう言い残し、老人はスッと 立ち去ってしまった。 |
語り手 | その背中に、イッチと嫁子は ただ唖然とするしかなかった。 |
【第七章:写真を見せてみろ】 | |
語り手 | 数日後、再び店を訪れた老人は イッチの写真を手に取って眺め始めた。 |
老人 | 『ふむ、この一枚にはいい“想い”が 込められている。だが…』 |
語り手 | 老人の鋭い視線が、写真の一部を 指し示す。まるでプロの指摘のようだ。 |
老人 | 『ここは焦点が散漫だ。 おまえさんの迷いが写っとる』 |
イッチ | 『迷い…ですか? 自分では結構狙ったつもりですが…』 |
老人 | 『撮り手の想いがすべてじゃ。 技術はその次だ』 |
語り手 | イッチは胸を突かれた気がした。 祖父からも似たようなことを聞いた覚えがある。 |
老人 | 『もっと見たい写真がある。 全部出してみい』 |
語り手 | イッチは過去に撮りためた作品を 段ボールから取り出す。 |
老人 | 『ほう…町の人々を撮ったのか。 いい表情もあるのう』 |
イッチ | 『昔は祖父と一緒に、この町の いろんな行事を撮影してたんです』 |
老人 | 『おまえさんの中には、町を愛する 強い思いがある。それをもっと出せ』 |
語り手 | 老人の言葉は厳しくも温かい。 イッチは素直に頷いた。 |
イッチ | 『ありがとうございます。俺… もっと本気でやってみます』 |
語り手 | 老人が写真を見つめるその横顔は、 どこか懐かしい光を湛えていた。 |
老人 | 『わしはしばらくこの町におる。 頑張るんじゃぞ』 |
語り手 | そう告げて、老人は再びふらりと 町の路地へ消えていった。 |
【第八章:フォトプランの始動】 | |
語り手 | 嫁子の提案で、観光客向けの ロケーションフォト企画がスタートした。 |
語り手 | 洞窟、海辺、そして町の古い路地を 撮影スポットとして公開する。 |
イッチ | 『こうして情報発信すると、 人が集まりやすくなるんだな』 |
嫁子 | 『うん。予約制にして、特別な体験を パッケージ化するといいよ』 |
語り手 | 企画の告知をSNSやホームページ、 さらに観光案内所にもチラシを配布する。 |
語り手 | 少しずつだが反応は上々で、 問い合わせの電話が増え始めた。 |
嫁子 | 『撮影はイッチが担当して、私は 受付やアテンドをやるね』 |
イッチ | 『助かるよ。二人で分担すれば なんとか回ると思う』 |
語り手 | 実際に来店する人々は、 「SNSで写真を見た」と話してくれた。 |
語り手 | 海外からの問い合わせも僅かだが 入るようになり、店は活気を帯びる。 |
イッチ | 『やっと回り始めたかな。 じいちゃんが喜んでくれるといいな』 |
語り手 | そんな中、例の老人が時々店先に 顔を出しては、様子を見て帰る。 |
老人 | 『ほう、繁盛しとるな。 まだまだこれからじゃぞ』 |
語り手 | その意味深な言葉を残し、 姿を消す老人の存在がイッチを奮い立たせる。 |
イッチ | 『もっといい写真を撮って、 この町の魅力を伝えたいんだ』 |
語り手 | イッチの写真への情熱はますます 燃え上がっていくのであった。 |
【第九章:二人の距離】 | |
語り手 | 新しい企画を共に進める中で、 イッチと嫁子の距離は自然と縮まっていった。 |
語り手 | 幼い頃は何も考えずに一緒に遊んでいた 二人だが、大人になった今は違う。 |
イッチ | 『嫁子、今日はありがとう。 本当に助かってるよ』 |
嫁子 | 『私こそ、やりがい感じてるよ。 ずっと都会暮らしだったしね』 |
語り手 | ロケハンの帰り道、海辺を歩く二人。 夕日が赤く空を染めていた。 |
イッチ | 『昔、この海辺で一緒に砂の城とか 作ってたの覚えてる?』 |
嫁子 | 『あはは、波にさらわれて すぐ壊れちゃったけどね』 |
語り手 | しばらく懐かしい話をしていると、 二人の笑顔が揃ってこぼれ落ちる。 |
語り手 | その瞬間、イッチは嫁子の横顔を まじまじと見つめていた。 |
イッチ | 『…なんか、改めて思うけど、 嫁子って変わらないな』 |
嫁子 | 『そう? いろいろあったけど 昔のまんまかもね』 |
語り手 | 夕陽に照らされた二人の間には 微妙にくすぐったい空気が流れる。 |
イッチ | 『……』 |
語り手 | イッチは何か言いかけて 言葉を飲み込むように黙り込んだ。 |
語り手 | ただ、その沈黙が心地よいと お互い感じているのを悟る。 |
嫁子 | 『そろそろ戻ろっか。明日も 早いし、やることたくさんあるよ』 |
語り手 | そう言いながらも、二人が 微笑み合うシルエットがそこにあった。 |
【第十章:再生への転機】 | |
語り手 | 町の観光協会が大規模なPRを 始めるというニュースが飛び込んできた。 |
語り手 | 「海辺の神秘洞窟を体験しよう」 「町全体をフォトジェニックに」そんな企画が進む。 |
イッチ | 『公式の撮影、俺に任せてもらえるって? 本当にいいのかな…』 |
嫁子 | 『イッチの写真が注目されてるし、 観光協会の人も期待してるよ』 |
語り手 | 観光協会の担当者はイッチの写真を見て 「新鮮な視点だ」と絶賛していた。 |
語り手 | こうしてイッチは公式フォトグラファーとして 様々な町の魅力を撮影して回ることになる。 |
イッチ | 『すごい展開だな…正直、 俺がここまでやれるとは思わなかった』 |
嫁子 | 『祖父さんの写真や洞窟の写真が 大きなきっかけになったんだよ』 |
語り手 | イッチはカメラを抱え、町の祭りや 人々の笑顔を積極的に撮り始めた。 |
語り手 | 写真館の方も忙しく、客足が さらに増えていく。 |
イッチ | 『まさに“再生”って感じだ。 嫁子、手伝ってくれてありがとう』 |
嫁子 | 『イッチが努力してきたからだよ。 私もやりがいがある』 |
語り手 | そんな充実した日々の中で、 老人の姿はほとんど見かけなくなった。 |
語り手 | だが、どこかで見守ってくれていると イッチは信じて疑わなかった。 |
イッチ | 『この町の魅力をちゃんと伝えたい。 それが今の俺の使命だと思うんだ』 |
語り手 | 町もイッチも、まさに転機を 迎えていたのである。 |
【第十一章:伝説の写真家からの激励】 | |
語り手 | ある日、店に戻ったイッチの前に あの老人が佇んでいた。 |
老人 | 『おまえさんの写真、 なかなか評判らしいのう』 |
イッチ | 『見てくれてたんですか? どうです、俺の写真』 |
老人 | 『うむ。町に活気が戻るような いい写真ばかりだ』 |
語り手 | イッチは素直に喜んだ。 そして、ずっと抱いていた疑問をぶつける。 |
イッチ | 『ひょっとして…あなたが 噂の世界的写真家、○○先生ですか?』 |
老人 | 『さあのう。人はそう呼ぶが、 わしはただの放浪者じゃ』 |
語り手 | 老人は飄々とした顔で答えるが、 イッチと嫁子には確信があった。 |
老人 | 『わしが偉いんじゃない。 写真が素晴らしいだけじゃ』 |
語り手 | その口ぶりは、まさに本物の プロが語る重みそのものだった。 |
老人 | 『おまえさんは、この町を 撮りたいんじゃろう?』 |
イッチ | 『はい…。この町の人も景色も 本当に大好きなんです』 |
老人 | 『ならば、撮れ。撮り続けて おまえさんの魂を込めるんじゃ』 |
語り手 | その言葉を聞いた瞬間、イッチは 心に火がともるような感覚を得た。 |
老人 | 『この町を愛する者として、 わしは応援しとるぞ』 |
語り手 | 老人はそう言い残し、店の扉を 静かに閉めて去っていった。 |
語り手 | 世界的写真家○○先生―― かつての伝説が、ここに息づいている。 |
【第十二章:プロポーズ】 | |
語り手 | 町が活気を取り戻し、写真館にも 笑顔の人々が増えてきた頃。 |
語り手 | イッチは心に決めたことがあった。 嫁子への想いがどんどん深まっている。 |
語り手 | ある夜、海辺の星空の下で イッチは嫁子を呼び出した。 |
イッチ | 『今日は見てもらいたい景色があるんだ。 夜の海と星空、一緒に撮りたい』 |
嫁子 | 『こんなに星がきれいなんて、 知らなかった。すごい…』 |
語り手 | 波音だけが聞こえる静かな砂浜で、 二人は星を見上げて座り込む。 |
イッチ | 『あのさ…俺、この町に戻ってきて 本当に良かったと思ってるんだ』 |
嫁子 | 『うん。私もこうして帰ってきて、 イッチと一緒に仕事できて幸せだよ』 |
イッチ | 『嫁子…俺、ずっと昔から お前のことが好きだったんだ』 |
語り手 | 嫁子は驚いたように目を瞬かせ、 でもすぐに柔らかな表情を浮かべた。 |
イッチ | 『これからも、写真館とこの町を 支えていきたい。その隣にいてほしい』 |
嫁子 | 『…イッチ…』 |
イッチ | 『結婚しよう。俺たちでこの町を もっと盛り上げたいんだ』 |
語り手 | 嫁子は一瞬涙ぐんで、笑顔で 大きくうなずいた。 |
嫁子 | 『私も、同じ気持ちだよ。 よろしくね、イッチ』 |
語り手 | 星の煌めく夜空の下、二人は 永遠の約束を交わした。 |
【第十三章:結婚式と写真館の未来】 | |
語り手 | 結婚式は写真館の庭で、小さな ガーデンパーティーとして行われた。 |
語り手 | 手作りの装飾と、町中の人々が 二人を祝福に集まってくれる。 |
イッチ | 『なんだか夢みたいだよ。 こんなにみんなが協力してくれて…』 |
嫁子 | 『イッチ、ちゃんとタキシード 似合ってるじゃん。かっこいい』 |
語り手 | そこへ、古いカメラを携えた あの老人が姿を現した。 |
老人 | 『ほれ、これをおまえさんに 贈りたい。わしの愛機じゃ』 |
イッチ | 『こんな貴重なカメラ、 本当に受け取っていいんですか?』 |
老人 | 『おまえさんらの未来を写してくれ。 それがわしからの祝いじゃ』 |
語り手 | 老人は新郎新婦の写真を撮り、 深く頷いてシャッターを切った。 |
老人 | 『まことにいい笑顔じゃ。 この町も、まだまだ輝くのう』 |
語り手 | その写真には、イッチと嫁子の 幸せな瞬間がはっきり刻まれている。 |
語り手 | やがて歓声の中、老人は軽く手を挙げて 静かにパーティー会場を後にした。 |
イッチ | 『ありがとう、先生… 俺、もっと写真を極めてみせます』 |
語り手 | 町は観光客が増え、写真館も 予約が絶えないほどに盛況となった。 |
語り手 | そしてイッチと嫁子は、この町の 笑顔と景色を撮り続けていく。 |
語り手 | 伝説の写真家と祖父の思いを受け継ぎ、 新たな未来へ歩み出したのだ。 |
語り手 | そう、古い写真館は再び光を取り戻し、 町に活気をもたらす拠点となった。 |
語り手 | イッチと嫁子は幸せに包まれながら、 この町を写し続けていくのである。 |
廃業寸前でボロボロの写真館にやって来た爺さんを撮ったら…実は!
